0人が本棚に入れています
本棚に追加
するとそこには、垂れた大きな耳にふわふわの尻尾、薄茶色の毛に真っ黒な瞳の小さな仔犬がいた。
「可愛い!!!」
「アキ、あんまり大きな声を出したらびっくりしちゃうよ」
お父さんが近寄って来てかごを覗き込む。
「ほんとだ。とっても可愛いね。お義姉さん、今日はありがとうございます」
「ううん。フユくんとアキに久しぶりに会えて嬉しいわ。それに、新しい家族が増えること、きっとハルも喜んでると思う」
「そうですね」
春恵。
4月生まれ、春生まれの、私のお母さんの名前。
満開に咲き誇る春の花々のように綺麗で可愛らしい、いつも笑顔のお母さん......は、3年前、私が小学4年生の時に病気で天国に行ってしまった。
「ナツ。ナツー」
私がかごの中の仔犬に向かって呼びかけていると
「あら、アキ。もう名前決めてたの?」
雪子おばちゃんが、優しくかごから仔犬を抱え出して、私に抱かせてくれた。
仔犬は真っ黒な瞳を潤ませて、少し不安そうな顔で私を見上げている。
お父さんとお母さんはよく、私の弟か妹はきっと夏生まれだろうから、そしたら『ナツ』とつけようね、そしたら我が家に四季が揃うね、と言って笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!