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 修一(しゅういち)には繰り返し見る夢があった。  それはいつもぼんやりと膨張する白から始まる。それが次第に禍々(まがまが)しく、鮮烈な血の色に染まり、最後には(まばゆ)い黄金の光に包まれて終わる。  ああ、しまった――。暗い夜の底で、冷たい汗に濡れた身体を震わせながら、修一はいつもそう呟く。  目が醒めてもまだ、その夢が続いていることを思い出すからだ。  弟の明良(あきら)が男に悪戯されたのは彼が小学五年生、修一が高校三年生の初夏のことだった。  夕刻間近。梅雨空に雷鳴が轟いていた。  明良の帰りが遅いことを心配した母親が蒼い顔で、帰宅した修一に弟を捜すように言った。  二本の傘を持って家を出た修一は、微かな焦燥を胸に抱きながら、雨に濡れた町を歩き出した。   明良は美しい子供だった。いつも濡れたように輝く、澄んだ大きな黒い瞳を持っていた。  おとなしく静かな子供だったが、笑うとこの世の全てを味方にしてしまうような、柔らかな魅力があった。
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