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 途中、塾に向かう明良の同級生に会い、明良が放課後、担任の男性教師と残っていたと聞いて、すぐに小学校へと向かった。  明良の担任には会ったことがあった。三十代くらいの地味な男で、いつだったか夜になって、明良が忘れたというノートを届けに来たことがあったのだ。  恐縮して受け取る母親に手をあげて応えながら、その横で嬉しそうに笑う明良の頭をさりげなく撫でて帰って行った。  玄関でのそのやりとりを何気なく見ながら、随分と親切な担任もいたものだと思ったが、今思えば彼は明良に会いに来たのかもしれない。  学校へ向かう足は、今やはっきりとした焦燥に衝かれていた。馬鹿げた考えだと、何故か一蹴することが出来なかった。  灰色の景色に沈む校舎に駆け込み、通りかかった初老の女性教師に兄であることを告げ、弟を迎えに来たと告げると、彼女は明良の教室を教えてくれた。  だが教室はすでに灯りが消えており、修一は急いで校庭を挟んだ体育館の方へと向かった。修一の母校でもあるこの小学校の内部はすべて把握していた。
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