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 修一はこみあげる苦いものを飲み下すために台所へ行き、冷蔵庫から冷えたビールを取り出して一気にあおった。 『……オレ、もう子供じゃないよ。二十歳になった』  そう言った時の、明良の少し蒼ざめた憂い顔を思い出す。  自分が明良を置き去りにした「あの日」から今日までの六年間、明良が何を考え、何を支えにその月日を乗り越えてきたのか修一は知らない。知ろうともしなかった。  卑怯だと詰られようが、腰抜けだと罵られようが、明良の存在を抹殺するよりほかに生きる術を見出すことはできなかった。 (だけどお前は来た。再び俺の前に)  だからもう逃げられない。重い足枷とともに、修一は再び歩き出す。  どこへ行きつくのかも判らない、けれど決して光が射すことのない、結末に向かって。  
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