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「美紗緒姉ちゃん」  教室の準備を終えて控室に戻った美紗緒を待っていたのは思わぬ人物だった。  「……明良?」   訝しげに返す美紗緒に、ちょっと目を瞠るほどの美しい青年が、覚えのある気弱な笑みで頷いた。 「久しぶり。そうやって水着着てると全然変わらないね」 「どうしたの、突然」  自分でも判るほど、固い声で問う。明良は昔から美紗緒の心にさざ波を立てる。それは怖れとも、ある種の共鳴ともいえた。 「こっちの大学に編入したんだ。兄さんから聞いてない?」 「ちっとも聞いてない」 「そっか」  明良は淋しげな笑みを浮かべ、それから隣に立っていた大柄な青年の背を押し出すようにして、美紗緒の前に立たせた。 「ど、どうも、あ、俺、あの、関口って言います。小学校から水泳やってて、あ、今は写真部なんすけど、紅野さんの活躍すごい見てて、そしたら澤野先輩が従姉だって、あの、つまり、すげえファンですッ」  バッと大きな身体を九十度に曲げて、手を伸ばされる。度肝を抜かれながらも握手を求められているらしいと気付き、そろそろと握り返すと、バッと顔をあげ、次の瞬間、それが真っ赤に染まった。 「うわあ、来て良かったあ~、先輩、ありがとう、マジ来て良かった~」  握ってやった手を少女のように胸に引き寄せ、大感激の青年を、明良が少し困ったように見て笑っている。
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