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「ゴメン、突然押しかけて。本当にファンみたいだから、どうしても美紗緒姉ちゃんに会わせてあげたくなって」 「別に構わないけど」  固い声のまま、美紗緒はさりげなく明良を観察した。子供の頃から整った容貌で人目を引いてはいたが、今は大人びた分、よりいっそう安定した美を感じる。  柔らかな印象は相変わらずだが、どこか陰りを帯びた眼差しが危うい色気を放ち、見る者を落ち着かない気分にさせた。  身長こそ170センチの自分とさほど変わらないが、肩幅や首の細さなどは美紗緒よりもずっと繊細な印象を与えた。  覚えのある苛立ちが、突然の雨雲のように美紗緒の胸中に拡がる。  美紗緒は家の都合で上京するまで修一と同じ学校に通い、同じ水泳部で汗を流した。  年齢よりも大人びた修一に対して、美紗緒は早い時期から淡い恋心を抱いていた。ずっと修一を見ていた。だから、明良の気持ちにもすぐに気が付いた。  七歳という年齢差のため、明良は一度も修一と同じ学生生活を送ることは出来なかったが、水泳の大会などがあるときは、必ず会場に駆けつけ、修一の泳ぎを熱心に見つめていた。それは修一が上京してからも続いた。  わざわざ静岡から足を運び、けれど修一に声をかけることはせず、密かに、唇をそっと噛みしめながら修一の雄姿を見つめていた。  そのひたむきな眼差しに出逢うたび、美紗緒はひどく苛々させられた。  男同士で兄弟の明良よりも、女で従姉の自分の方がずっとまともだし、分があるはずなのに、奇妙な焦りは美紗緒の胸を離れてはくれなかった。
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