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子供の頃はよく従姉弟同士で海に行った。当時、小田原には静岡の祖父の姉夫婦が住んでいて、毎年夏休みにはそこへ遊びに行った。彼らには子供がいなかったから、三人はよく可愛がってもらった。
近くの海は穴場的な場所で、人がほとんどおらず、プライベートビーチのような解放感を味わうことができた。
最後にそこへ行ったのは、美紗緒たち家族が上京して一年ほど経った頃だから、美紗緒が高校三年、修一が二年で、明良はまだ小学四年生だった。
明良は兄と一緒に泳げるのが嬉しくてたまらない様子で、修一から片時も離れようとはしなかった。修一の大きな背中の上に乗り、波間をゆったりと漂いながら、明良は無邪気な笑い声をあげた。
修一もいつになく明るい眼差しで明良をからかいながら遊んでやっていた。
その光景は端から見れば非常に微笑ましいものだったが、美紗緒はなにかモヤモヤとした面白くない気分に悩まされていた。
小学生相手にやきもちもないが、輝く大きな目で兄を無条件に慕う明良の、愛らしく素直な姿は美紗緒の劣等感を煽った。
泳ぎ疲れた明良を抱き上げて大切そうに浜辺に運ぶ修一の目も、ひどく優しげで慈愛に満ちていた。
思えばこの頃から美紗緒は予感していたのかもしれない。この美しい兄弟が、その強い愛情ゆえに、いつか道を踏み外してゆくことを。
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