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「ね、先輩!」
「で、でもオレのはフィルムだから、関口君がやったら。デジタルの方がいいでしょう」
「いや、うちでスキャンできるからフィルムでも問題ないよ。ねえ、浅香さん」
「もちろんよ。あ、でもボランティアになっちゃうけど」
「はは、うちは全部ボランティアで回ってんなあ」
西崎が言うと、浅香と関口は大らかな笑い声をあげた。美紗緒が苦々しい思いで明良を見ると、明良も美紗緒を見て、決まり悪そうに目を伏せた。
それからプールへと移動すると、競泳水着を身に着けた修一が入ってくるのが見えた。明良がハッとして足を止めたのが判った。久々に見る修一の水着姿に目を奪われているようだ。一途な眼差しに、嫌悪よりも焦りが先に立つ。
修一がこちらに目を遣ったのが判ったので軽く手を挙げて、隣にいる明良を示すと、その表情がスッと強張ったように見えた。
今日は小学校高学年のグループの初日で、レッスンの手初めに、インストラクター自身が泳ぎの手本を見せることになっていた。正しく美しい泳ぎを見せることで、生徒たちのやる気を鼓舞する狙いがある。
「西崎君、スタート頼むね」
「えー、俺がすか?」
面白くなさそうな顔で、西崎が修一の方へと歩いてゆく。正規のインストラクターである自分がボランティアである修一の補助をするのが気に食わないといった様子だ。何かと修一を目の敵にしていた。自分より生徒の評判がいい修一をライバル視しているのだろう。
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