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誰とでもフランクな態度で付き合えるが、決して深入りすることはない。それは美紗緒に対しても同じだった。
美紗緒が修一に対して何のアクションも取れないのは、拒絶されるのが怖いからではなく、その他大勢の人間に対するのと同じ温度で、美紗緒の感情を頭で理解しようと修一が努めることが判っているからだ。その冷静さが我慢ならないのだと思う。
そんな修一が誰かを避けるのだとしたら、それは逆に、感情を制御出来ないほどその相手に執着しているからに他ならない。
そして美紗緒が知る限り、修一がそんな態度を取るのは昔から明良に対してだけだった。明良だけが修一の感情を乱すことが出来る。美紗緒にはそれが悔しくてならなかった。
苛立った気分のまま、泳ぎ終えた修一の元に明良を伴って近づいた。キャップとゴーグルを外した修一が、無表情にこちらを見る。
「明良がこっち来てたの知らなかったよ。なんで言わなかったの」
「俺が言わなくても、お袋から隆伯父さんに話が行くだろ」
「そういうことじゃないでしょーが」
呆れる美紗緒の横で、明良は居たたまれない様子で俯いている。
修一は一瞬苦い顔をしたあと、すっと踵を返した。
「時間だ。始める」
明良がすがるような目を向けるが、修一は振り返らなかった。
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