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 キャンパス内が眩しい新緑に染まるようになり、明良も少しずつ新しい大学のリズムに慣れ始めていた。  比較的講義が早く終わる木曜日に、明良は写真部の暗室を使わせてもらうようになっていた。  暗室に独りこもり、水泳場で撮った写真を引き伸ばしてゆく。修一の時間を永遠に閉じ込めたそれらを見つめながら、明良は先日の出来事を思い返していた。 『修一に会いにきたんでしょ』  冷ややかな美紗緒の声が蘇る。美紗緒は気付いているのかもしれない。彼女もきっと修一が好きなのだ。  兄と美紗緒は幼い頃から同じ水泳という世界で互いに切磋琢磨してきたという強い絆がある。自信に溢れた二人が肩を並べて立っている姿はとても自然で、明良の目には眩し過ぎるほどだった。  思えば美紗緒からはいつも冷たい視線を送られていた気がする。その目は実の兄を特別な意味で愛している自分を嫌悪しているようにも見えた。もし美紗緒が修一と特別な関係にあるのだとしたら、当然いい気分ではないだろう。  それに、従姉の美紗緒が気付くくらいなら、いつか両親に気付かれてしまってもおかしくはない。それはひどく怖ろしい想像だった。  自分の異常な想いはたくさんの人を傷つけてしまう。  こんなことはもう、本当に終わらせなければならないのに――。
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