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「お、出来たか。どれどれ、澤野師匠の作品を拝見といきますか」  仕上げたばかりの写真を、部室の細いロープに吊るし終えると同時に、榊が入ってきた。 「あ、ダメです! まだ」  明良が手を振って写真を隠そうとすると、榊は意地悪く笑いながら明良を押しのけ、腕を組んで横並びの写真を一枚ずつ眺め始めた。  明良はドキドキしながらそれを見守る。  矯めつ眇めつ丁寧に見てゆく榊は、小さく唸り声を上げた。そして笑顔は残しつつ、表情を引き締めてゆく。 「なるほどね、これが君の写真か――。うん、いいね。ゾクゾクする」 「ほんと、ですか」  榊はそれには答えず、集中した様子でじっと眺めている。  写真は明良がこちらに来てから撮ったものばかりだ。水泳場の他にも、キャンパスの景色や学生たち、街の通り、夕暮れの景色、そこを行き交う人々の表情などを捕えたものもあった。 「レンズは目であり心だ。写真はそれを如実に表す。面白いね、君は普段ずいぶんおとなしそうだけど、その実、内にかなり激しいものを秘めている。ギリギリまで抑圧された眼差し、息苦しいほどの緊張感、それが君の写真だ」  榊は明良を振り向いて、静かに笑った。 「特に、この一枚」  榊が爪の先で弾いたのは、修一の写真だった。ギクリと明良の身体が強張る。  それは泳ぎ終えたプールサイドで、キャップとゴーグルを外し、髪を手櫛で整えたあとふいに明良を見た瞬間を捉えたものだった。  冷ややかで鋭くて、けれどそれだけではない複雑なものを目の色に湛えた表情は、明良を訳もなく震わせた。
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