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ゴボゴボゴボッ…と水のうねる音だけが修一の脇をすり抜けてゆく。
肩が外れ、身体が四方へとバラバラにもげてゆくような感覚に身を委ねる。
このまま肺が潰れて、心臓が動きを止めたっていい。明良はもっと苦しかっただろう。吉川に抱かれながら、その心は修一に切り刻まれていたに違いない。
本当は優しくしたかった。
この世の誰よりも大切に慈しんで、明良の望むように抱いてやりたかった。
欲しがる言葉も好きなだけ与えて、自分だけに縛り付けて、誰の目にも触れさせたくなかった。
明良が泣いていいのは、自分の腕の中だけだと言いたかった。
何故、兄弟になど生まれたのだろう――。
ピイイイイーーッと鋭いホイッスルの音が聞こえ、修一はハッとして水をかく腕を止めた。
「なにやってんのッ!!」
水から顔を出すと、美紗緒が駆け寄ってくるのが見えた。
「あんた何時間泳いでんの!? もう十時だよ!」
「悪い」
修一は冷え切った鉛のような身体で水から上がり、痛む頭を押さえた。
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