慰魂祭

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慰魂祭

 故郷に降り立つ。  香るのは、焼ける土と、濃い草木の夏の匂い。  …僕の知っている故郷が持つの匂い。  帰って来た。  どれぐらいぶりだろう?  東京に出てから、一度も帰って来ていない。  帰る気が、どうにもおきなかったから。  …それにしても暑い。頭がくらくらして来た。  …だから、だと思う。  見えた。  僕を悲しげな目で見る、女の子の姿。  今はもういない筈の、あの子の姿。  …見えたモノは、暑さが見せた一瞬の幻覚。  …ゆらゆら揺れる、カゲロウの夢。  ちりんと、鈴の音が聞こえて。  瞬きの間に、女の子の姿は消えた。  かつて僕は、ある女の子を殺しました。  殺したんです。僕が。  助けられたのに。  僕に、あと僅かでも勇気があれば、助けられたのに。  …あの子を殺したのは、僕なんです。  僕の故郷であるこの町では、古くから伝わるお祭りがある。  土曜の朝から日曜日の夜まで二日間続く、慰魂祭(いこんさい)と呼ばれるこのお祭りには、少しだけ、他のお祭りには見受けられない特徴があった。  …祭りに参加する者は、必ずお面を着けて顔を隠す事。  それが、この慰魂祭のルール。  例外は無い。     
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