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大人も子供も、男性も女性も、屋台を営み、祭りをとり行う全ての人が、皆例外無くお面を着け、顔を隠す。
今はもう形骸化してしまって、顔を隠す様にお面を着ける人は殆どいないけれど。
それでもファッションとしてお面を…狐やおたふく、般若や鬼という昔ながらのお面や、今時のキャラクターのお面を着けている人は多い。
…僕もそのお祭りに参加する為、屋台で売っていた狐の面を着けた。
勿論、顔を隠す様には着けていなかったけど。
わいわいがやがやと高校の時の友人と縁日を回り、たこ焼きや焼きそばを食べながら近況を話したりして。
楽しかった。
本当に、本当に、楽しかったんだ。
…縁日で、ユウヒちゃんの姿を、見るまでは。
狐のお面を斜めに着けたユウヒちゃんは、あの日の姿のまま…あの日の服装のまま、屋台と屋台の間に立っていて。
「―、―、―、―」
ユウヒちゃんの口が動く。
何を言っているのか、まったく分からない。
こんなにも、縁日の喧騒ははっきり聞こえるのに。
ユウヒちゃんの声だけが、聞こえないんだ。
「…聞こえないよ、ユウヒちゃん」
ユウヒちゃんの名前に、高校より前、小学生の頃からの友人が、ぎょっと怪訝そうな顔をした。
当然だ。
ユウヒちゃんの名前は、タブー扱いになっていたから。
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