慰魂祭

3/14

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 ユウヒちゃんがいなくなった、小学五年生の時から。 「―、―、―、―」  聞こえない。  ユウヒちゃんの声が、聞こえない。  聞こえないんだよ、ユウヒちゃん。  一歩、また一歩と、ユウヒちゃんに歩み寄る。  ユウヒちゃんは踵を返して僕から逃げ、森の中に消えて行った。 「待ってっ!ユウヒちゃんっ!」  駆け出す。  ユウヒちゃんに会う為に。  森の中を進んでいく。  ユウヒちゃんを追って。  ユウヒちゃんがいる。  目の前に。  僕を見て、泣いている。 「ユウヒちゃん…ユウヒちゃん…!」 「…………リョウ、君」  ユウヒちゃんが僕の名前を呼ぶ。  覚えているままの声で。  悲しい…あまりにも悲しい、声で。  …気が付けば、朝になっていて。  僕は、僕の実家に帰っていた。  僕を追い掛けて来た友人達が森の中で倒れている僕を見付け、そのまま僕の実家に運んでくれたそうだ。  携帯で、僕を届けてくれた友人と、昨日一緒に縁日を回っていた友人達に無事である事を伝える。  …その間も、ずっと。  ずっと、耳の奥で。  …ちりんと、  鈴の音が、響いていた。  ある所に、ユウヒちゃんという女の子がいました。  とても可愛らしく、活発で、心優しく、いつもお祖父ちゃんに貰ったという鈴をランドセルに付けた、女の子。     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加