慰魂祭

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 最近は誰もユウヒにお線香をあげに来てくれないから、きっとユウヒも喜んでいます」 「…ありがとうございます。頂きます」  ぐいっと麦茶を煽りながら、ユウヒちゃんのお母さんを見る。 「…どうかしましたか?」 「あ…ああ、いえ。  …お元気そうで、何よりです」 「…どうにか、です。  …あれからもう十一年経ったんですもの。  私達も、もう前を向かなければなりません。  …実は私達、明後日この町から引っ越す事になったんです」 「そう…だったんですね」 「ええ。夫の勤務地が新しくなって。  …だから、こうして笑っていられるのかもしれません。  …この町には、ユウヒとの思い出が多過ぎるから」 「…………」 「…どうかしましたか?顔色が悪い様ですが…」 「…………申し訳、御座いませんでした…ッ!」  僕は、頭を下げる。  上げる事は、無い。 「僕があの時、犯人と戦っていれば。  …あの時僕に、少しでも勇気があれば。  …ユウヒちゃんが、死ぬ事は無かったのに…!」  覚えている。  夏の暑い日。  通学路。  今日も何も無い一日で終わると信じていた、朝。   僕の少し前を歩く、ユウヒちゃん。  黒い車が、ユウヒちゃんのすぐ横で止まる。  扉が開き、  男の手が伸びて、  ユウヒちゃんの口を塞ぎ、  車の中に、引き込まれていく。     
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