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母親の言う通り、こんなに早く家を出るのは小学校以来だった。気温も、空気も、光も、いつもの登校時とは違う感じがする。
(朝早いって、こんなに気持ち良かったんだっけ。なんですっかり忘れちゃってたんだろう)
いつもと違う静かな下駄箱を通過し、まず絵麻のクラスを、開いていた後ろの扉からそっと覗いてみる。
―――あ。
ほんとに、いた。
同じクラスの、あまり目立たない男子。おそらく会話したことは一度もないだろう。
一番後ろの席に座って、手にしたスケッチブックに教室の絵を描いているのが見える。
やっぱり、あの絵だ。
朝日を受けて逆光になっているその真剣な横顔に思わず見入ってしまっていると、その男子がこちらに気付いた。
「あ、ごめん、ここ朝霞さんの席だった?」
急に話しかけられて、思わず「ひぇっ」と声を上げてしまった。
「い、いや、違うよ、大丈夫!」
そう言って絵麻は自分の席に鞄を置き、座った。
絵麻は先ほど変な声を出してしまったことがめちゃくちゃ恥ずかしくなり、彼の方を向けなくなってしまった。
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