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ジリジリと、太陽が肌を焦がす。ジージーと鳴く蝉は、ミンミンという都会のものとは違っていて、どこか懐かしい。
一年ぶりに帰って来た田舎は、何も変わっていなかった。
「ただいまー」
このご時世にも、昔と変わらず鍵をかけない玄関をあける。靴がずらりと並んでいた。
三年前、東京の大学に進学して、はじめてお盆に帰省したときはこの光景に驚いた。お盆に親戚が集まるのは子どものころから当たり前のことだったけど、玄関に並ぶ靴を入り口から見たのは初めてだったから。
中からは健次郎叔父さんの笑い声がする。独特の引き笑い。変わらないなー。
一旦、二階の自室に向かう。私の部屋は、昔と変わらず、そのままにしてあった。
「ただいま」
ベッドの上に並んでいる、お気に入りのぬいぐるみに笑いかけた。少し感傷に浸ってから、一階に降りる。
いつもみんなが集まる和室に向かうと、案の定、親戚が揃っていた。
末席に腰をおろす。
みんな元気そうで何よりだ。
斜め前には、従兄の宗一兄ちゃんがいた。引きこもりがちなニートの宗一兄ちゃんは、親戚中の懸案事項だが、今年は来たらしい。
宗一兄ちゃんは、周りの喧噪に顔を背けて、俯いて、一人でちびちびとビールを舐めるようにして飲んでいる。
「宗一くんは、最近どうなんだい?」
誰かの質問にも宗一兄ちゃんは答えない。
「ちょっと、宗一」
美里叔母さんが宗一兄ちゃんを軽くつっつくが、やっぱり宗一兄ちゃんは俯いたまま。
部屋の中の空気が、ちょっと凍った。
「ごめんなさいねー、この子は本当に」
「いやいや」
「こうやってここに来るようになった分、進歩じゃないか。なあ」
大人達が空気のリカバーに走る。
「千尋ちゃんの新盆だからね」
しかし、美里叔母さんの言葉に、再び部屋の中が凍った。
みんな、口にしないように避けていたのに。美里叔母さんは、やっぱり宗一兄ちゃんの母親だ。どこかずれている。
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