夏祭りの夜に

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シーンシンシンシンシンシン...。 蝉の声が聞こえる。クマゼミの声だ。 蝉の鳴き声は、嫌いではない。七日しか生きない奴らの命の叫びは、心に響く程ではないけど、夏を感じる立派な風物詩だとは思う。 だけど、今年は 「里織、もうお昼よ。」 蝉の声に混じって、母があたしを呼ぶ声が聞こえる。でも、起こそうって気は全く感じない。母は、あたしがいつも、とっても早く起きていたことを知ってるから。だから今は、叩き起こすべきじゃないって、判断してくれてる。 「ご飯、置いとくから。起きれたら、食べるんだよ。」 そう言い残す声の少し後、玄関の鍵を開け、そして、締める音が聞こえた。パートに行ったのだ。帰りは多分、夜。父より、若干早いくらい。 シーンシンシンシンシンシン...。 クマゼミの声が響く。いつもは夏を感じる嫌悪を覚えないこの声が、今のあたしにはひたすら[シーネシネシネシネシネシネ...]と聞こえる。 あゝ。あたしには、もう、生きる気力がない。 もう、何も、したくない。
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