夏祭りの夜に

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「結機(ゆうき)のことが、好き。あたしと、付き合ってください。」 ひゅーう。 屋上に、風が、吹いた。漫画でよく見る寒い空気になったそれではなく、頬を優しく撫でるような、そんな感じの風。 結機はあたしの顔を見て、目を丸くしている。顔が、異常に、赤い。 それを見て、あたしは、心の中で一人ニンマリする。 正直、勝算は、あった。 なんてったって、あたしと結機は異性はもちろん、同性の他の友人を含めたって、一番の仲良しだ。男女で別れているから部活練習中こそ一緒ではないけど、同じソフトボール部で切磋琢磨して、二人で一緒に自主練習するのはもちろん、二人っきりではないにしても、休み時間や、お弁当だって一緒に食べる仲だ。試合で勝った時にはハグしたり、ペッドボトルの回し飲みなんて、日常茶飯事。 友情が、恋心に変わったのは、いつだっただろう。全然わからないけれど、いつしかあたしは、ソフトボールの練習だけではなくて、他のメンツの中に混じってではなくて、結機と二人っきりで過ごしてみたくなった。世間でいうところの、『カレカノ』になってみたいと思ってしまった。簡単なことだと思った。今までのあたし達に、少しだけ、特別な何かが加わるだけ。あたしたちの少し近過ぎた友情を、恋情と、置き換えるだけ。結機があたしを意識してなかったとしても、嫌われてるとは到底思えないから、フラれるなんて、ありえない。 あたしは、結機からの快い返事を、息を殺して、待っていた。期待、というか、もう、確信に近かった。 赤い顔をした結機は、そのまま、口をそっと開くと、言った。 「友達だったら、全然いいけど。俺、お前みたいなブスが彼女なんて、絶対嫌だから。」 .........。 時が、止まった。思考が、停止した。 「じゃ、じゃ、俺、行くから。」 呆然とするあたしを見て、ヤバイと思ったのか、顔を赤くしたり、青くしたりしながら、結機は、慌てたように屋上から去っていった。 残されたあたしは、呆然と、立ち尽くす。 ...あぁ、あたし、フラれたんだ。 足からガクッと力が抜けた。その場に崩れ落ちた。ぼんやりとした頭は、もう、結機と一緒にはいられないのか、と当たり前のことばかりをリピートした。
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