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ソフトボールの練習場所の、工事が終わった。
だから、今日から部活が始まる。
正直、胸のモヤモヤが完全に晴れたわけではないけれど、いつまでも気にしていても仕方がない。あたしはいつも通り、誰よりも早く学校に着いた。
「...も、守山。」
と、思っていたが、どうやら違うようだ。
聞き覚えがある声に振り向くと、結機が、緊張した表情であたしを見ている。
「おはよう、あの、この間のことなんだけど。」
「あ...ごめんね?急に。あたしの気持ち押し付けちゃって。あたし、あんたが告白されてどう思うかなんて、全然考えてなかった。」
正直、一瞬力んだけれど、話始めれば、言葉はスラスラとこぼれ出てきた。でも、これは、考えの足りない言葉じゃない。考え抜いた、あたしの精一杯の思いだ。
「だから、気にしないで...。」
「あの、違うんだ。俺は、その、前言ったことは、本心じゃなくて、その、急に言われて動転したっていうか、その、だから、俺だって、守山のこと。」
「里織、結機、おはよう。」
タイミングがいいのか悪いのか、友人の一人が合流し、結機の言葉はそこで途絶えた。
「あ...じゃあ、俺、あっちだから。」
「うん、じゃあね。」
「またねー。」
手を振って別れてしばらく歩くいていると、横に並ぶ友人が申し訳なさげにあたしを見る。
「ごめん、さっきなんか取り込み中だったよね。」
「ううん。気にしないで。」
近いうちに結機は、あたしに考え抜いた言葉を伝えてくるだろう。あたしは、それにきちんと応えなければならない。そのためには、もう少しだけ、時間が欲しかった。だって、あたしは
シーンシンシンシンシンシン。
少し遠くで、蝉の声が、聴こえた。
夏は、まだ、始まったばかりだった。
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