0人が本棚に入れています
本棚に追加
美雪は居間の窓から外を眺め、いつからこうなってしまったのだろうと、遠い記憶を探っていった。
美雪が夏と初めて会ったのは、夏が生まれてまだ三ヶ月の頃だった。その時は、当たり前だが夏は乳児だったので、美雪に対して特別つれないだとかはなかった。むしろ、周りの親戚の大人たちが夏をちやほやする中、小学五年生だった美雪の方が、一つ間違えれば壊れてしまいそうな赤ん坊を避け、抱っこをするのも頑なに拒否したことを憶えている。
次に、美雪が夏に会ったのは、夏が五歳、美雪が十五歳の夏だった。この時に、もう二人の間柄は確定してしまった。両親や祖父母やそれ以外の親類、近所の人や街行く赤の他人、そのすべての人々に対して、行儀よく、愛想良く振る舞う彼女が、何故か十歳上の叔母だけは邪険にした。
まず、呼び捨てである。だが、それだけなら親愛からくる場合もあるだろう。しかし、それだけでなく、夏は美雪の容姿や行動にいちいちケチをつけ、五歳児ながらに十五歳を見下し始めた。最初は、姪という慣れない存在から発せられる謎の敵意に戸惑うばかりの美雪だったが、しばらく経つと、幼い姪からではあれ、理不尽な扱いに腹が立ってきていた。
ある時、夏の雑言に耐え兼ねた美雪が、激しく夏を怒鳴りつけたことがあった。その時、夏に大泣きされた美雪は、大人たちに白い目を向けられた以上に、生まれ初めて自分より遥かに幼い子供を泣かしてしまったことへの罪悪感に、ショックを受けた。
それ以後、夏に強く出れなくなった美雪だが、夏の美雪への態度の悪さは年を経る毎にエスカレートしていくばかりで、美雪はもう、夏をできるだけ避けるしかなかった。しかし、夏の方はと言えば、嫌いな相手だろうに、やたらと美雪につっかかってくるのだった。
最初のコメントを投稿しよう!