僕に会ったらサヨナラのキスをして

2/2
前へ
/2ページ
次へ
蝉しぐれが始まった。 ああ、今年も暑く虚しい夏がやってきたんだな。 僕にとって夏はテンションが下がる季節なんだ。 朝、早く起きるつもりもないのに、 蝉の合唱で目が覚めてしまう。社会人一年目にして挫折をした僕。 それから二年目の夏だ。二十代半ばを無駄にしているかもしれない。 日銭を稼ぐバイトで生活は、何とかしている。そんな僕は、一般的にみて落伍者の烙印を押される存在だろう。 だとしても、人生の目標とかー大きな考えが湧いて来ないんだよ。 一応、夏が終わり、陽射しが和らぐ頃になると、前向きに自分の事を考えるようになるんだ。興味のわく分野の勉強を始めてみたりする。資格取得を目指してね。 秋は、いい。冬もいい。その頃にある試験は合格するんだ。というか、僕に向いている感じ。 春からだんだんと、やる気が失せ始め、夏になると死に絶えたミイラのように殻に閉じこもってしまう。 若いのにって? 違うよ。僕は何年経っても二十代半ばのまま。 そう、「僕」が生きていた頃はもうすでに過去なんだ。 終わりの記憶が夏の虚しさを成仏させてくれなくて。 夏が来るたび、思い煩う僕の分身。もし、僕に会ったらサヨナラのキスをしてね。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加