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「その、ちょっといろいろ誤解があるようだから、ひとつずつ話そうか」
喫茶店に入るなりそう切り出したお父さんは、困ったような顔で言葉を探しながら、それでも丁寧に私のわだかまりをほどいていった。
真保が見た若い女の人は会社の人で、ランチを奢る代わりに、思春期の娘との会話のレクチャーを受けていたということ。
今回のお母さんの話は、本当はお母さんの側から要求されたということ。
お父さんは私のためを思って、言われた通り身を引こうとしていたということ。
「再婚するからもう会わないでほしいって言われて、夏海もそれを望んでいるって聞いてはいたんだけど。どうしてもその、お父さん、そのままお別れは嫌だったから、せめて一目と思って……」
「ていうか私、そんな話してないし」
「そ、そっかあ」
お父さんはわかりやすくホッとした顔をした。
私はそんなお父さんの反応に、密かにホッと息を漏らす。
想定内とはいえ、私にとっては再婚話自体が初耳だ。お母さんが和斗さんを私に気に入らせようとしていたのはわかっていたけど、そんな風に話されているとは、さすがに思っていなかった。
お父さんは安心したのか、突然思い出したようにテーブルの傍らに立て掛けてあるメニューを引っ張り出した。
「ごめん、なにも注文してなかったよな。夏海、なに頼む? あ、ミルクセーキは頼むから安心して」
にこにこと機嫌よく笑っているお父さんに、私はするりと本音を溢した。
「実は私、もうあんまりミルクセーキ好きじゃないんだよね」
「え!」
想像以上に驚いたお父さんは、勢い余ってテーブルの裏側に膝を強く打ちつけた。しばらく静かに悶絶して、眦に涙を浮かべつつ苦笑する。
「そうだよな、もう夏海も十六歳だもんなあ。お父さん、全然気がつかなくて悪かったな。今日はなんでも飲みたいやつ頼んでいいぞ。メロンソーダとか、コーラとか」
真面目な顔で言うお父さんに、私は思わず吹き出した。
「お父さん、本当に思春期の娘との会話、レクチャー受けてきたの?」
「え、うそ、また間違ったのか?」
「あはは」
ミルクセーキもメロンソーダも、コーラだってもう私はほとんど飲まない。カフェやファミレスで飲むのは、いつもミルクティーだ。だけど。
「やっぱり今日は、ミルクセーキがいいかな」
私が笑うと、その倍お父さんが嬉しそうに笑った。
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