夏前線の月曜日

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「ね、今度の海の日さ、プール行こうよ! 夏海の誕生日も近いし!」  ガヤガヤとクラス中の話し声が充満する昼休みの教室で、くっつけた机の向かい側に座るかな子が、両手で頬杖をつきながら身を乗り出した。 「あー……その日はちょっと」  私は勢いに気圧されつつ、爛々と目を輝かせるかな子から僅かに視線を外す。と、それを見計らったかのように、斜め向かいに座る真保がにやにやと口元を緩ませた。 「バカだねぇかな子。夏海の海の日は永久予約済みなんだよ」 「え? なになに、どゆこと? ロマンスのにおい?」  途端、かな子は好奇の色を深くして、さっきよりも楽しそうに声を弾ませてくる。  私はそんなかな子をたしなめるように声のトーンを落として、いかにも面倒くさいという風なポーズをとった。 「そんなんじゃないんだって。ただ、その日は毎年、お父さんと会う日になっててさ。それだけ」 「え、お父さん? 夏海の?」 「そう」  私が頷いてみせると、いかにも困ったような顔でかな子が二の句を告げずにいるので、私はそういえばと思い至る。中学が同じ真保はこのことを前から知っているけれど、かな子に話したことは、なかったかもしれない。  別に隠すことでもないし、この機会に話しておこうか。思って、私はいまだ言葉を探しているかな子へと向き直った。
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