第一章

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アイスコーヒーが温まり、ホットコーヒーが冷めて。そうして僕らは同じ温度になった。 彼女は夏でもホットを頼む。たしかに外気温の反動から、店内はわざとらしいほど冷房が効いていて寒すぎるくらいだ。でもそういう理由からではなく、彼女からすればアイスコーヒーは苦くて飲めないのだという。ホットなら熱さで味がよくわからないから平気なんだとか。それに加えて、スティックシュガーを二本入れたそれはもはやコーヒーとはいえず、ほかの飲み物にすればいいのに、といつも思う。  はじめてのデートは十九歳だった。当時話題になったラブストーリーを観て映画館を出たあと、あまりの暑さにとりあえずカフェにでも入ろうということになった。 「アイスコーヒーをひとつ」 「あっ、わたしもコーヒー。えっと、ホットで」 彼女は僕がコーヒーを頼んだから、コーヒーにした。しかも、なぜかホットで。 汗を拭いながら、そして嘘みたいに砂糖を入れながらホットコーヒーを飲む彼女の可笑しさに、つっこみを入れてあげないくらい僕は冷たくて、それに気づかないくらい彼女は熱かった。 きっと僕はかっこつけたかっただけで、彼女は僕に近づきたかっただけなのだろう。無理してそうしていたのが、いつしかふつうになった。 そのときからずっと僕らの習慣は変わらなかった。
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