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浴衣を着て電車で一時間以上かけて花火を見に行くなんて、本音を言えば絶対イヤだった。
浴衣は暑いし、着崩れも気になるから落ち着かない、下駄は鼻緒が痛くなる。
一見風情かもしれないけど、実際はいい事なんて全然ない。
でも、花火を見に行くなんて久しぶりで、カレの花火じゃない本当の目的もなんとなく分かってたし、だから面倒だったけど行くことにした。
行ってみると花火はきれいだった。思った以上にきれいだった。
花火より私をチラチラみてタイミングを計ってるカレは気になったけど、それさえも可愛いと思った。
それでここでくるかな?ってタイミングで引っ張られた。
ちょっとだけ痛かったけど許してあげる、だって花火大会の最中にキスなんて、
それはロマンチックで夏の思い出には最高だから。
あの頃はゴタゴタが続いてて、夏なんてただ暑いだけで嫌いになってた。
でも、久々に甘くてキュンとする夏だった。
だからね、花火大会の別れ際に私からキスしたの、深くて甘くて汚れたキスを。
うん、カレは驚いてた。
彼女からのキスは濃厚豚骨ラーメンのようにとろみがあって、深くて甘かった。
ボクのキスは出汁のうすい中華ラーメンだ。
今更ながらボクは年下だということを思い知った、そういうキスだった。
カレとはね、憂さ晴らしのための遊びだったんだけど、あのキスはヤバかった。
このままだと本気になるのは想像ついた、だから帰っていた実家をすぐに出たの。
彼女は行ってしまった。LINEも返ってこないからどこに行ったのかもわからない。
彼女がボクとは遊びだった事はなんとなく分かっていた。でも楽しい夏を一緒に過ごしたかったからそれでも良かった。
でも、唯一つ心残りは行ってしまう前にひと夏の経験をしたかった。
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