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彼女を地元から少し離れた花火大会に誘ったのは、知り合いに見られるのが嫌だったのとある計画のためだった。
彼女と花火大会に行く、それも浴衣を着ていくなんて夏の思い出シチュエーションとしてランキングをつけるならばかなりの上位だろう。
その年、ボクはそのシチュエーションを実行することに成功した。
彼女は浴衣を着るなんて久しぶりで恥ずかしいなんて云っていたが、淡いイエローで描かれた多分ひまわり柄の浴衣は、ボクには可愛い以外の形容詞を使えなくさせた。
会場に着くと彼女はボクの左隣に座り、下調べをしておいた花火大会のプログラムを緊張を隠すため話し続けた。
地元のしょぼい花火大会とは違い、数千発が夜空に咲くさまは素晴らしく、会話をしながら見ていた彼女とボクだったがプログラムが進むにつれ次第に花火に魅せられ、ただ咲いてはすぐに散ってしまう花々に声にならないため息をついた。
そしてクライマックス、観客はスターマインが打ち乱れるのを見つめるなか、ボクだけは気もそぞろに彼女の横顔だけを見つめる。
そして意を決して彼女の腕を引いた。
彼女は引かれるままボクの方へと身体を崩す。
その肩をできるだけそっと抱きかかえると、ボクは彼女とボクの人生で初めてのキスをした。
味なんて無かったし、感触も覚えていない。ただ唇を重ねただけ、それだけで精一杯だった。
驚いた表情の彼女だったけど、ボクの手をギュッと握ってくれた、瞬間フィナーレのナイアガラが流れ落ち、人生二度目のキスをした。でもやはり緊張で味も感触もなかった。
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