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城へと続く細い路地。そこはとても賑わいを見せていた──
遥々と何時間も掛け、遠い集落から駆け付けた沢山の民が列をなし、城下町を埋め尽くす。
道の端に並ぶ店の店主達も稼ぎ時だと言わんばかりに仕事に精を出していた。
「ほらほら、買うなら今のうちだよ!昼前には店、閉めちまうからね!」
「勿体ない!?こんな稼げる時に閉めちまうなんて商売気がない人達だよ!」
「あはは!でも今日ばかりは譲れないさ!あたしらだってあやかりたいからね」
商品を売り買いしながらあちこちから笑い声がする。
「どの道この分じゃ午後まで持たないよ!ほら、もうチャイが鍋の半分以下しか残ってないよ」
父親の手伝いをしていたチャイ売りの男の子は、鍋が軽くなったとばかりに抱えてみせていた。
路地に押し詰める客も店の者達も、今日は皆が今か今かと何かを待ちわびている。
「ほら鳴り始めたぞ!」
何処からか鐘の音色のような歌を奏でる声がする。
「広場が開放された合図だ!よし、俺達も店を閉めて準備するぞ!」
「ああ、この日を逃しちゃいけねえ。今日は待ちに待ったザイード様の晴れの舞台だからな!」
楽しげに店を畳む店主達を周りにいた客も加勢する。
その場で渦を巻いていた人だかりは開放された城門へと動き始めていた。
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