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ターミルと共にこの時を目にしたかったが仕方がない。猛将は戴冠式を終えると同時に急ぎで何処かに消えて行った。
何やら「準備に手間がいる」なんてブツブツ口にしてはいたが、いったい何の準備をすると言うのだろうか──
無表情ながら何かを考え込む。そんなアレフの気配が背後から漂ってくる。
「こういう時まで考え事か」
「ああ、いえ。そういうわけでは……」
前を向いたまま訊ねてくるイブラヒムにアレフは歯切れの悪い返事をしていた。
「ターミル殿を呼びに行かせるか少々考えて居りまして……せっかくの同席。ザイード様とマナミ様の婚儀をターミル殿も楽しみにしていたので……」
「うむ……そう言えば昨夜、ターミルと茶をしていた間、何度も“王!儂は明日は大忙しですぞ!”そう、口にしていたようだが……」
「………」
言った後、イブラヒムとアレフの脳裏に不安が過る。
「まあ……なるようになりますでしょう……」
「うむ……」
諦めたアレフの呟きにイブラヒムはただ頷くだけだった。
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