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蟻のように集まった黒い人だかりを城の高いところから覗き、セナは黒く大きな目をさらに広げる。
「すごいわ……こんな人の数……見たことない……」
思わずゴクリと喉がなり声が震える。ただでさえ広大な砂漠地帯だ。そしてその広い砂地に1000を超える少数部族の民が各々にひっそりと暮らしている。
そんな民達が長旅をしてでもザイードの晴れ舞台を一目でいいから拝みたいと集まって来ているのだ。
「え、何がすごいの!?」
「マナミ様は見ない方がいいと思いますっ」
思わず椅子から腰を上げ掛けた愛美をまるで叱りつける勢いでセナはそう言い放った。
あまりにも真剣な表情で振り返ったセナに愛美は驚いて大人しくなる。
セナはまた窓を向いた。
「こんな状況を見たら今から緊張しまくるに決まっているわ……」
ブツブツと呟きながら焦りを浮かべる。
セナは大人しく鏡を前にした愛美を心配そうに見つめた。
「マナミ様、痛くはありませんか」
「ええ、大丈夫」
尋ねられて愛美は笑みで答えた。大きな鏡台の前に座った愛美の髪を綺麗に纏め上げ、ピンを差し込む。
この日の為に伸ばしていた髪も肩下までの長さになった。いつもはセナが簡単に結い上げてくれるのだが、今日は愛美にとっても生涯に一度となる大事な日だ。
そんな愛美の背後では専門の者が身仕度に取り掛かっていた。
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