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ああ、この娘(こ)は本当にこの国の王となる方の妃になるのだ。
セナはそんな想いを含み優しく目を細めた。
「ではマナミ様。私はこれをお渡ししてきます」
手にしていたブローチをハンカチに包むセナに愛美は「お願い」と短く返した。
準備は仕上げの段階に入っている。
そんな愛美を見届けるとセナはそっと扉を閉めて居室を後にした。
戴冠式を開く城の大広間には大臣や王家の血縁者達が集まっている。
儀式は厳かな雰囲気の中で執り行われる。
戴冠の儀が無事に済んだ後にザイード達の婚姻の儀がすすめられる予定だ。
残念ではあるが、愛美はザイードが冠を承ける姿を目にする事が出来ない。
婚姻の儀式を済まさぬ以上、愛美はまだ王族の関係者とは見なされないからだ。
王家にはそんな仕来たりが未だに沢山残っていた。
扉の隙間から広間を覗くとセナは儀式に参列していたアサドを見つけた。
人の出入りがある度に開いた扉の隙間を覗くセナに扉の外にいた男が声をかけた。
「もうすぐ儀式が始まります。今は関係者以外の方は立ち入ることはできません」
今日は我が国の王子の晴れの舞台だ。普段は兵服を着ている軍の者達も銃を小脇に抱え、白装束という正装で警備の任務にあたっていた。
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