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「アサド様に直接お渡ししたい物が御座いまして」
セナは愛美の付き人だ。
使用人ではあるが一階の兵士より位は高い。
男は扉の内側にいた警備の者に確認をとった。
「まだ儀式が始まる前なので、手短に済ませて頂ける御用であればお通し致します」
セナにそう告げると外にいた警備員は扉を開けた。
内側にいた警備の者がセナをアサドのところまで案内していく。
以前の任務で負傷した脚は完治にはまだ少し時間が掛かりそうだ。
正装姿のアサドが腰掛けている椅子の横には、松葉杖を抱えたハーディが付き添っていた。
「アサド様」
「ああ、セナか。どうした」
「御借りしていたこちらをお持ち致しました」
セナがそっと差し出した物にアサドは視線を止めた。
微かだが躊躇いが浮かぶ。
「そんなに急ぎで返さずとも良かったが……そうか、わざわざ済まない。向こうも今は準備で忙しいだろうに……」
そう言いながらブローチを受け取ったアサドにセナは会釈をして背を向けた。
その場からセナを見送るとアサドは手にしていたブローチを見つめる。
そして軽いため息の後、何故か微かに笑みを浮かべた。
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