午前8時の君

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*  数年ぶりに帰ってきたこの町は相変わらずの田舎町で、忙しなかった都会での生活を忘れさせてくれるようだった。  夫を亡くして実家の豆腐屋を継ぐことにして、数週間。夫を亡くした悲しみはまだ忘れていないと言うのに、自分の軽さに腹が立つ。  ごみの日の午前8時、いつも恨めしそうに青空を見ながら歩く彼の姿に、なぜか見惚れてしまった。  営業マンであるという彼は一見すると強面で近寄りがたいが、「おはようございます」と声を掛けるとふわりと笑ってくれる。  その笑顔に、私は強く惹かれてしまったのだ。
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