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 彼女が――彼女が上に乗っていた。  性欲とはまた別の、もっと違う何かを切実に追求するかのようで、彼女のその姿は妖しくも淫らだった。  言葉では心意のすべてを正しく言い表すことは難しい。だから彼女の身体で彼の身体に直接伝播させようとしている気配を感じ取った。どこか痛切で、けれど力強かった。言葉とは違う形で彼女の気持ちにほんの少しでも触れたような気がした。  藍田としてはそれは嬉しいことだった。けれど彼自身はすでに彼女に支配されているも同然のつもりだった。  藍田は、二人きりのときにだけ覗かせる彼女のその素顔に強い愛おしさを感じていた。彼女は普段は仕事に真面目で、穿った思考をしていて付け入る隙などまるでない。彼女を籠絡することは困難だし、近付くことさえこれまでに果たして何人が可能としただろうか。世渡り上手で、人間関係を上手く操り、社会を強(したた)かに過ごしているようだった。要するにガードが堅く、口説き落とすのは簡単ではない。  だが実際のところ、彼女は甘えん坊だった。独占欲が強くて、嫉妬もしてくれた。会う度に藍田を求めてきた。  藍田はそんなギャップに感嘆とさえしていた。それは愛情というより、強いて表現すれば優越感に近いものだった。自分だけに心を開いてくれていることが嬉しかった。  どうして自分なんかを想ってくれるのだろうか、と何度も何度も疑問に思ったこともある。自分に彼女は相応しくないという気持ちは決して謙遜ではなく、それこそが厳然たる事実であるはずなのに。自分の何が彼女を強く魅了しているのか、それはまだわからないままだ。
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