19人が本棚に入れています
本棚に追加
明かりを落とした昏い部屋の中で、アイアンベッドがぎしぎしと響く。藍田の上に伸し掛かり、果てを求めていた。強く下腹を打ち付ける度に、水面を掌で叩くような音が響く。眉根を寄せ、背中を反り返らせる様子を見せても、だが止めようとはしない。彼女の表情や仕草が、苦痛と快感のどちらを意味しているのか、それはもう訊くまでもない。
彼女の長い髪が舞い、乳房が揺れていた。一糸纏わぬ彼女のその姿は、蠱惑的なくびれを曝け出し、柔和で温かな白い肌が美しかった。
彼女が動きを緩めて、背を折り口付けを交わしてきた。舌と唾液が深く絡み合う、淫靡なそれ。それを皮切りに、藍田は彼女を抱き抱えたまま起き上がり、勢いよく彼女を押し倒した。今度は彼が上になる番だった。
見下ろした先の彼女はあたかも待ち焦がれているようだった。甘美にして恍惚に満ちた彼女の貌(かんばせ)が、藍田をより興奮させた。
「愛して、る?」
彼女は息も絶え絶えに問いかけてきた。危うく聞き逃してしまいそうなほどにか細くて儚い声色だった。が、その一言はどんな諫言よりも彼の耳に鋭く侵入してきた。ともすればいまにも果ててしまいそうなほどに弱々しくどこまでも無防備な表情なのに、その瞳だけは、藍田を、彼のどんな表情の機微さえ見逃すまいと確かに捕らえていた。
その彼女の表情(かお)に彼は一瞬たじろいだ。あまりにも美しいと感じたからだった。他の誰にも見せない、自分だけに見せるそれだ。彼の全身に烈(はげ)しくも心地良い痺れが迸った。
答えはもちろん決まっている。藍田は彼女を愛している、誰よりも。だが、彼はその言葉を口に出せなかった。それを口にした途端に意味そのものまでが言葉と共に出ていってしまいそうな気がするからだ。
最初のコメントを投稿しよう!