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これまでのガールフレンドにも、そういう接し方をしていた。だが、この梨乃ちゃんとの関係が始まって以来、いままでの自分とはまるで違う性格に変貌してしまったかのようだった。いまでは自身の貪婪さにしょっちゅう戸惑っている。認めてもらいたい、解ってもらいたい、愛されたい――その斯様な感情がすべてを破滅させる原因にさえなり兼ねないとわかってはいる。わかってはいても、だけどそれでも気持ちを抑えられなくて、むしろ日に日に加速しているのが現状だ。
要するに甘えているのだ。向こうは大人だ。いまでこそ、藍田のどんな態度にも優しく接してくれてはいるが、このまま図に乗って無理なことを言い続ければ、いずれ見限られてしまいそうな予感がする。その瞬間を考えるだけで、恐怖すら覚える。結末を冷静に分析できていてもなぜか止められない、相反する気持ちの鬩ぎ合いが彼を苦しめていた。梨乃ちゃんと出逢うまでにはなかったことだ。
家にいようが学校にいようが、藍田はどこにいてもこのような懊悩を抱えていた。
本当は迷惑なんてかけたくないし、勇ましい姿を見せたかった。自分が彼女を支えたいし導いてあげたい。それが藍田が考える梨乃ちゃんに対する理想的な立ち居振る舞い。しかし、理想と現実の差は簡単に彼を絶望させてしまう。もっと彼女に相応しい人間で在りたいと思えば思うほど、皮肉な程に諦観が過(よぎ)ってしまうのだ。
その現実とは、まだ十代の少年が背負うには、あまりにも重すぎる。
梨乃ちゃんには、家庭があった。人妻だった。そう、つまりは所詮は不倫――どれだけ悩み考えようとも、自分はそもそもお門違いな存在なのだと自覚するに至る。これが最も彼を苦しめている原因。その致命的な現実が、彼を戦慄させる。だから、藍田には、彼女に自分という存在は相応しくないのだと考えてしまう。結ばれなくてもいい、一緒にいることさえできればそれでいいはずだった。それなのに、それでも結局のところ、未だにきっぱり割り切れない自分が甚だ情けなかった。
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