15/18
前へ
/126ページ
次へ
「まあ、仕方ないわな」  藍田はすでに観念していた。廊下を走り回ったこちらに非は確かにあり、あの教師の諫言は正しい。癪ではあるが、大人しく従うしか他なかった。 「まったく散々だぜ」 「まあ悪かったよ」  理由はどうあれ、走り回したのは藍田だった。彼自身に負い目を感じ、とりあえず謝るしかなかった。 「良いって。俺も勘違いしてたみたいだからよ」  佐藤にはここに戻ってくる途中で一応の説明をしておいた。梨乃ちゃん、その名をもちろん出してはいないが事情があるという簡潔な話で、しかし彼はそれであっさり納得した様子だった。 「さんきゅな」 「それより、話は戻るが――」言葉を一旦区切って、佐藤は長い脚を組んだ。本題に入る為だと藍田は思った。「お前ここで何してたんだ?」 「何って、昼飯を食べるところだったんだよ」  そう言って、藍田はビニールに入ったパンを佐藤に見せつけるように持ち上げた。 「はあん」  気の抜けた返事だった。興味がないのか納得していないのか、それともそのどちらでもないまた別の感情を宿しているのか、それは藍田には判り兼ねた。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加