19人が本棚に入れています
本棚に追加
「まあ、仕方ないわな」
藍田はすでに観念していた。廊下を走り回ったこちらに非は確かにあり、あの教師の諫言は正しい。癪ではあるが、大人しく従うしか他なかった。
「まったく散々だぜ」
「まあ悪かったよ」
理由はどうあれ、走り回したのは藍田だった。彼自身に負い目を感じ、とりあえず謝るしかなかった。
「良いって。俺も勘違いしてたみたいだからよ」
佐藤にはここに戻ってくる途中で一応の説明をしておいた。梨乃ちゃん、その名をもちろん出してはいないが事情があるという簡潔な話で、しかし彼はそれであっさり納得した様子だった。
「さんきゅな」
「それより、話は戻るが――」言葉を一旦区切って、佐藤は長い脚を組んだ。本題に入る為だと藍田は思った。「お前ここで何してたんだ?」
「何って、昼飯を食べるところだったんだよ」
そう言って、藍田はビニールに入ったパンを佐藤に見せつけるように持ち上げた。
「はあん」
気の抜けた返事だった。興味がないのか納得していないのか、それともそのどちらでもないまた別の感情を宿しているのか、それは藍田には判り兼ねた。
最初のコメントを投稿しよう!