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 ――藍田くん、起きて。  闇すら感じない無。その静寂(しじま)を熾烈に切り裂く声は、透き通るようで可憐だった。  温(ぬる)くなった陽射しが心地良い。肌で感じる温度も最適だ。しかし、周りがいつもより些か以上に騒がしくて耳に障る。  茫洋とした意識が徐々に覚醒していく。藍田は机に身体を折り曲げている体勢にあることにまず気付き、ゆっくりと起き上がる。 「はあ……」  大きな欠伸が出た。顔を上げた先には女生徒――葛城景子がこちらを見詰めていた。艶やかなショートヘアに大きな瞳。瑞々しくも愛嬌のある容貌はどこか愛くるしい小動物を思わせる。 「おはよう藍田くん」 「ああ、葛城、おはようさん」  どうやら寝てしまっていたらしい。夢すら見ないほどの深い眠りだった。 「寝坊助さん。よく寝てたね」  葛城は些か呆れた様子を見せた。眉根が若干傾いていた。 「そんなに寝ちまったか。いまは?」 「授業はもう終わったよ。藍田くん、部活でしょ?」 「あ、ああ。すまねえ」  藍田は慌てて荷物を纏め始める。寝坊で部活に遅刻しましたなんてことは、絶対に回避したい。 「そんなに焦らなくてもいいよ」 「え?」
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