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葛城は苦笑していた。
教室は、まだ生徒たちが揃っていた。私語が乱れ飛び、賑やかではあるが帰ろうとはしていない様子だ。いま担任の先生が下校の鐘が鳴るのを待ちながら帰りの挨拶をしている最中だった。
「藍田くん、まだ寝惚けてるんじゃない?」
どうやらそうらしい。目は冴えたが、まだ上手く脳の機能が漫然としている気がする。身体も気怠い。
藍田は両腕を広げて思いっきり身体を伸ばした。縮こまっていた筋肉が小気味よい開放感に満ちる。
「ああ、爆睡してたよ」
授業の内容がどんどんお経のような無機質なものに聞こえてきて眠気に蹂躙されたことを憶えている。更に窓から注がれる陽光が拍車を掛けた。そうして藍田は、睡魔に誘惑されるがまま為す術もなく微睡んでしまったのだ。
「知ってる」
「そりゃそうか」
今度は藍田が苦笑する番だった。眠れる彼を目覚めさせたのは葛城本人なのだから当然である。
「ねえ、藍田くんさ」
「ん? どうした?」
葛城はすぐに言葉を紡ぐことはなく、一瞬の間が空いた。
彼女の表情が神妙な面持ちになっていた。嫌な予感がした。藍田が焦燥に陥るにはそれだけで充分すぎた。
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