Ｒ

７

「最近、お昼いないね」
「あ、ああ……」
　声こそ明るかったが、取り繕っていると感じさせる響きだった。
　その話か、と藍田は辟易した。やはり葛城は違和感を覚えているのだ。もはや懐疑と言ってもいい。ここ最近、昼休みになると決まって姿を消す彼の行動が解せないのだろう。
「いやごめん。ちょっと気になっただけなの」
　笑顔が乾いていた。葛城の葛藤は、もはや歴然だった。何を考えているのかはわからない。だが少なくとも、単なる興味本位で訊いているわけではなさそうだった。
「謝んなよ。今日は佐藤と会ってたんだ」
「佐藤くん？」
　嘘、ではない。だが飽く迄それは結果だ。目的は異にしている。
　だが葛城を欺き通したいわけではない。藍田は事実から目を背けたかった。
　前よりももっと複雑な心情が影を落としていた。好意を懐いていることは、認める。でなければ、こんなにも彼女を想い、会いたいとは思いはすまい。だからこそ、あれから一度も彼女に会えないことが痛ましかった。
　やはり、勝手な淡い期待だったのだろうか。
　もう二度と会えないのだろうか。
　なぜ彼女は藍田の前に現れたのだろうか。
　それに意味はなかったのだろうか。
　様々な思いが錯綜していた。話すどころか、感情の整理すらままならなかった。彼を当惑させているのは、たった一度出逢っただけの女性に、自分はなぜこんなにも強く惹かれてしまっているのか、だ。