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あ、そう言えばね昨日嬉しいことがあったんだった。
すっごくすっごく嬉しいことさ。
最近全然来なかったお母さんが久しぶりに僕のところへやって来たんだ。
おっと、嬉しいのはこれじゃないよ。
勿論嬉しいことのひとつなのに変わりはないのだけど、
僕が嬉しいのは、お母さんの言った言葉さ
「お母さんね、やっと決心したの。ごめんなさい。…やっと、やっと貴方は自由になれるっ。」
自由になれる、って!
その言葉を聞いただけで僕は嬉しくて嬉しくて…飛び上がれはしないけど、そんな気分になったんだ。やっと鯨に、なれるって
…でもね、ひとつだけ不思議なことがあったんだ。
お母さんたらその言葉を言ったら大泣きしはじめて、ずっとごめんなさい。しか言わないの。
何で泣くのだろう?
僕は、自由になれるのに一体どうしてごめんなさい。というのだろう?
泣かないで。って言いたいのに僕の口はやっぱり動かなくて
せめて涙を拭いてあげようと思ったけど、やっぱり手も動かなくって
僕は、そっと窓の外を見た。
その日も、真っ青の空で…
…お母さん、僕ね。鯨になりたいんだ。
聞こえないのは分かっているけれど、僕はお母さんを見て心の中で言う。
お母さんの読み聞かせてくれた絵本を見てから、ずっとずっと、僕は鯨になりたいの。
でもね………
実は、鯨になりたいのは、絵本を見たからだけじゃ無いの……自由になりたい、それだけじゃ無くて
「…あのね、お母さんね。この絵本の青い色をした鯨が好きなの。…お父さんには内緒よ?私が貴方の名前をつける時、私何故だかこの絵本のことを思い出してね、どうしても私が付けたいのって言って、貴方の名前を付けたのよーーーー「青」ってね。」
本当に嬉しそうな、嬉しそうな笑顔で言ったお母さんの大好きな絵本の
お母さんの大好きな「青」にも
僕はなりたいの。
だから泣かないで。お母さん。
自由になったら、きっときっと僕は会いに行くから
青い鯨になって、青い青い空を泳いで。
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