盆踊り

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 前にいた男の人が早歩きで前進し、結果、私の後ろにいた女の子に追いついたのだ。  その途端、今までどんなにもがいても輪から外れることができなかったのに、足が勝手に櫓の側を離れた。  まだ曲の途中なのに太鼓が鳴りやみ、すぐに音楽自体も途切れる。そのおかしな状況の中、櫓を振り返ってみたけれど、最後まで一緒に踊りを踊っていた二人はの姿はどこにもなかった。 「〇〇ちゃん。…ごめんなさいね。でも、あなたでなくて本当によかった」  どこにいたのか、私をここへ連れ出した祖父母が近づいてくる。でもその言葉の意味も涙ぐんでいる訳もこの時の私には判らなかった。  その意味を何となく理解したのは、翌日、何故か村を挙げての宴会になり、私は来るなと言われていたけれど、急な用事でそれに参加している祖父母の元へ向かった際、酔漢の一人から聞かされた話でだった。  十数年ぶりに嫁が決まった。これでこの村はまたしばらく安泰だ。  その時は意味がまったく判らなかったけれど、程なく昨夜の状況が記憶に甦ってきて、私は昨夜の盆踊りが何であったのかを悟ったのだ。  あれはこの土地にいる何かの嫁を探す儀式だった。私はその最終候補に残ったが、幸いにも選ばれずにすんだらしい。  宴会の席でさりげなく聞いて回った話では、あの子は昨夜から姿が見えず、もう戻って来ることもないらしい。  山間の小さな村に伝わる非道な儀式、周りの話では、それが行われるのは数十年後になるらしい。  でももう二度と、私は祖父母の家に泊まりに来るつもりはない。そして、もしできることならばこの噂をどうにか広め、この先犠牲者が出ないようにしたいと思っている。 盆踊り…完
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