プロローグ

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プロローグ

丘陵の続く広大な草原。多重に伸ばされた土嚢に匍匐し、迷彩を纏って身を隠した軍隊の全ての銃口が敵の来る方角を睨みつける。 五百メートルで調定されたリアサイトを覗き込み、己の持つ最新鋭の銃に命を預けた二千に上る兵士。その一人一人の息遣いが風に乗って聞こえるほどに戦場は静寂を保っていた。 「敵の数、目測で一万二千! 彼我の距離、八百!」 前線の若干後方に浅く掘られた塹壕の中で指揮官、ラリア国が貴族の一人。爬虫類の特徴が色濃くでている亜族のロイド・バリーズ男爵が状況報告を受ける。 数にして六倍。圧倒的に数的不利な状況でロイドは依然、落ち着きを保っていた。 「この程度の数の差など武器の優位の前に揺るぐことは無い。キシワダ準伯爵も恐ろしい銃を作ったものよ」 「しかしキシワダ様はいかなる場合も慢心は足元を掬うと仰っていました」 「十分に心得ている。だがな、如何なる場合を想定しても負ける気がせんのだ」 部下の忠告に一度頷いたロイドは、半分を鱗に覆われた顔に笑みすら浮かべて手元にあった相棒、ボルトアクション式ライフルを手に塹壕を出た。     
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