0人が本棚に入れています
本棚に追加
普段つけない色のついたネイルをしたり、自分としては、普段のアースカラーとは違う色の上着を選んだり、冒険と称するにはささやかな選択方針の違いみたいなもので。
はっとすると、少し先の骨董品店の店先に彼は止まっていて、私は早足で追いかけた。
そこへ近づくと
「ほら、猫がいるぞ。」
嬉しそうに目を細めて彼がいう。
『エッ、どこですか?壺とお皿しか…』
店頭のガラスの向こうには、高価そうな品物が陳列している。
『あっ!』
ふわふわと毛並みの良い猫がその隙間にくるりと身体を横たえて満足気な寝顔をしている。
「かわいいな。」
『はい!かわいいですねぇ』
特別な時間。心が潤って水面は安定する。
しあわせな時間。
『あの…
これからも此方にいらっしゃるのですか?
御用は今日だけなので?
明日もこの辺りにいらっしゃいますか?
いつまで…』
「ふぅむ、そうね。」
猫に目を細めたまま、にこにこしながら彼は言う。
「たいしているわけじゃあないけども、明日はいるかな。今週末に●●町にある大ホールで、仲間の公演というか知り合いのショーがあるんで、その手伝いというかな。観覧者はまだ募集中だ。お前に無理がなければだがそこで会えるぞ。」
意を決したのになんだか当たり前みたいに言われて、当たり前にいるようなふうに頭がボーッとした。おっと、うっかり返事を忘れてはいけない。
最初のコメントを投稿しよう!