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夕暮れ
私の慕う、主人は人ならざる者。自らの手で斬られ此の世を後にした…はずだ。ある夏の午後、私は消えていた彼の姿を見かける。いつもどおりの町に、あのときと変わらない彼がいる。
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昼下がりから夕暮れていくいつもの町。
彼が取材で行く目当ての店の開店時刻にはまだほんの少し時間がある。
私はまだ大したことも話せず、そのままでは家に帰れずに、なんとなし日暮れの町を二人で歩いていた。
以前と変わらず、手を繋ぐなどということはなく当然、寄り添うわけでもない。背が高く、歩くのが少し早いあなたに合わせて追いかける。飲食店のショーウィンドウがうつすあなたの横顔は、相変わらず美しかった。
普段着の、というか、病院帰りの格好の私は、急に恥ずかしくなった。
彼のロケや取材で彼に会いに行くときは、いつも、せめてもの身嗜みを整えて、というよりは、自分の心を整えてからだったから。
支度のときは、わくわくしながら考えた。どうしよう、どんな服を着たら、ふつうになれるの。周りの素敵な女性たちに浮かないようにいられるかしら。彼を眺める資格があるようになれるかしら。ただでさえ緊張するのに、服装で臆していてはもったいないもの。
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