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試写会は出演者・監督・原作全てが話題になっていたものだっただけに、さすがに面白かった。
映画を上映した後の舞台挨拶では始めて肉眼で見る芸能人に胸を踊らせた。
「今日は付き合ってくれてありがとう! 来てよかったね」
「おう。俺を誘ってくれてありがとな。ところで相澤」
朝待ち合わせた場所で別れようとすると、浅野くんが咳払いをひとつした。
「何?」
「好きなヤツとかいたりする?」
そんな質問をされると思ってもみなかったので、目をパチパチとさせ、浅野くんを見つめると彼はこれまで見せたことのない顔を見せた。
日に焼けた顔を赤らめ、いつもは真っ直ぐに人を見る視線はしきりに泳いでいる。
「……いないよ」
私は自分に言い聞かせる意味でもそうはっきりと答えた。
浅野くんはガッツポーズを取り、満面の笑みを浮かべ、いつものように真っ直ぐに視線を合わせてきた。
「じゃあ俺頑張ってもいい? またどっか遊びに行こうぜ」
「ダメって言ったらどうするの?」
「嫌われるまでは諦めないと思う。そんくらい相澤のこと好きんなちゃったからな。本当はもう少し言うの我慢しようと思ったけど」
その瞳同様、どこまでも自分の気持ちを真っ直ぐに伝えてくる浅野くんに私の方が照れてしまう。
浅野くんは私が昔、柚木くんに求めたものを持っているのに、やっぱり彼は私にとっていい友達だった。
「じゃあ……とりあえず明日学校で」
「お、おう」
何度も振り返りながら手を振る浅野くんに笑ってしまう。
浅野くんと一緒にいたら、不安なんて感じることもないんだろうな、と容易に想像が出来た。
今は友達でも、いつか……。
笑顔が残ったまま、見上げた空には薄い雲のベールがかかっていた。
「……かすみ雲」
この雲が浮かんでいる空は、一見、晴れているように見えるが、実は天気が悪くなることが多いと聞いたことがある。
私は家路を急いだ。
雨が――落ちてくる前に。
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