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(二)
「旬、そろそろバイトに行く時間じゃないか?」
パソコンのモニター画面とにらめっこをしていた俺に、三つ先輩の山里宏昌が時計を指差して時間を教えてくれる。俺は慌ててパソコンの周りを片付ける。
俺は教団内部の事業所で「仕事」を、外部で「アルバイト」をしている。仕事は何時から何時まで、休みは何日、というふうには決まっていない。与えられた作業をこなすため、自由にパソコンの前で手を動かす。比較的緩い、しかし完全な成果主義だ。アルバイトはきちんと勤務時間と時給が決められている。遅刻は厳禁だ。
「ヒロさん、また明日!」
「おう、免許と車のために頑張れよ」
ヒロさんと周りの仲間に頭を下げ、サブリーダーの青海さんに進捗を伝えてから部屋を出る。
教団の仕事で給料をもらいながらもアルバイトをしているのは、お金が必要だからだ。仕事では微々たる給料しかもらえない。団地にいる限り生活費はそこまで必要がないにしても、稼ぐためにアルバイトをする必要があった。もちろん、十八になると同時に免許を取り、車を買って、陽菜と呑気にドライブをしたいわけではない。
俺は、ここから逃げ出したいのだ。
陽菜と一緒に逃げて、どこか別の場所で過ごしたいのだ。
そのためのアルバイト、資金調達なのだ。
もちろん、両親も幹部指導者たちも、陽菜でさえもこの計画を知らない。伝えるつもりもない。
信者を辞めたい――そんなことを周りの大人に喋ったら、折檻されるだろう。幹部指導者の息子であっても例外ではない。再教育されて、逃げ出すことができなくなってしまう。
だから、秘密の計画なのだ。誰にも知られてはいけない。俺だけの秘密なのだ。
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