(一)

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(一)

 まるで外の世界と隔絶された村みたいだ。巨大な集合住宅を見上げながら、俺は自転車を漕ぐ。  いくつかの棟からなる住宅地は塀と私有林に囲まれており、町に通じる一本道には関所のように扉と見張り施設がついている。高級住宅地にも同じような設備があるらしいが、この場所は富裕層の住まいというわけではない。ゆえに、「見張り」の性質が異なる。防犯のために設置されたものだと両親から説明されていたが、成長した俺にとって、それはまるで住民を閉じ込めておくための檻の役割をしているように思えてならない。  何しろ、香西団地(かさいだんち)と呼ばれるこの集合住宅地に住むことができるのは、カサイ教団の信者だけである。特殊な住宅地であることに間違いはない。  アルバイトを終えた俺は、いつも通り自転車で自宅がある棟へ向かう。途中で黒塗りの外国車とすれ違う。誰なのか顔は見られないが、信者ではない。乗っているのは本殿から帰る客だ。     
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