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キャッシュトレイにお札を乗せながら、彼がちらりと視線を上げる。
花御はさっきよりも驚き、レジに金額を打ち込むことさえ忘れて青年を見遣った。
「ちょうどこの間、居酒屋のバイト辞めたところで。ここなら尚もいるし、えっと、花御さん? も、多分俺のこと覚えてくれてると思ってるんですけど……どうでしょう」
「どうって……いやまぁ、覚えてますよ。香乃くんのお友達でしたよね。今から新しい人を待つことを考えれば、僕としては有難い話ですけど……君は、それで」
「はい。いいバイトないかなぁって思ってたところですし、楽しそうなので。あ、お釣りいいですか」
「あ、あぁ……すみません」
押されるようにして進んでいく話に気を取られて疎かになる手元を、青年の柔らかい声が急かす。何年もやっている作業だというのに、花御の手は酷く落ち着かない様子で小銭を包んだ。
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